【用語集】タレブ著作に出てくる難解用語まとめ|バーベル理論・反脆弱性などを解説

ナシームニコラスタレブの本を読んでいると独特の言い回しの”タレブ用語”がたくさん出てきます。

中々難しい概念も多く理解しにくいので自分自身の知識整理も兼ねてまとめてみました。

タレブの本を読んでいる方の参考になれば幸いです。

タレブの基礎用語

ブラックスワン

ブラックスワンとは巨大な影響をもたらす、大規模かつ予測不可能な突発的な事象のこと。 リーマンショックなどの金融危機もブラックスワンの1つ。

白鳥(スワン)の中にはごく稀に黒い白鳥(ブラックスワン)が存在することからこの事象を表すたとえとして用いられています。

正のブラックスワン

正のブラックスワンとは、良い方向に働くブラックスワンのこと。

重要な特性は、利益に上限はないが、失敗による損失には上限があり失敗は既知であるということです。

負のブラックスワン

負のブラックスワンとは、悪い方向に働くブラックスワンのこと。例えばリーマンショック。負のブラックスワンの方が正のブラックスワンよりも予測するのは難しいです。

反脆弱性

ブラックスワンに対する解決策としてタレブが提唱した概念が反脆弱性です。

反脆弱性とは、衝撃や無秩序を成長の糧にするしなやかさを持ち、頑健さや耐久力を超越するもの。

反脆弱性という概念は『反脆弱性』上下巻の計800ページを使って説明されている程、簡単には説明できない曖昧な概念で非常に難解でわかりにくいです。 なのでなんとなく理解ができれば十分だと思います。

タレブは世の中にある意味あるものはほぼすべて3つのカテゴリー(トライアド)に分類できると言っています。

それは「脆弱」「頑健」「反脆弱」の3つです。

脆弱:平穏を求めるもの
頑健:何事にも動じないもの
反脆弱:無秩序を成長の糧にするもの

以下の表では、具体的な「話題」ごとに脆弱・頑健・反脆弱にあたるものを書いているので参考にしてみてください。

弱弱しい頑健壊れにくい
倫理弱い人高大な人強い人
倫理身銭を切らないしシステム身銭を切るシステム魂を捧げるシステム
クラス中流階級最低賃金労働者自由人、貴族、世襲の資産家
教育・育児教育ママ街中での生活育児の本+街中でのケンカ
学習教室実生活実生活+蔵書
仕事企業の従業員最低賃金労働者タクシー運転手、売春婦
数学負に歪んでいる変動性が低い正に歪んでいる
オプション取引ボラティリティ、ガンマ、ベガをショートボラティリティに対してフラットボラティリティ、ガンマ、ベガをロング

※『反脆弱性』下巻20-24ページを参考に作成

身銭を切る

損害の一部を背負い、何かが上手くいかなかった場合に相応のペナルティを支払うことです。

「身銭を切るとは、自分のお金や時間を差し出さなければ何も得ることができないことである」というような説明がされていることがあります。

しかし、これは半分正解で半分間違っています。

タレブの著書『身銭を切れ』では、儲けたときには利益を懐に収め、損したときには損失を誰かに擦り付けるような人のことを痛烈に批判しています。

この概念は、身銭を切らない人への批判と身銭を切る倫理的な重要性という意味で説明されています。

そのため、「身銭を切るとは、自分のお金や時間を差し出さなければ何も得ることができないことである」という説明はある意味間違っているというわけです。

タレブの著作に出てくる用語

アペレス流の戦略

アペレス流の戦略とは、正(良い方向)のブラックスワンへのエクスポージャーを最大化して、正のブラックスワンが起きたときに利益を得ることを目指す戦略。

※エクスポージャーとは、リスクに晒されている資産割合のこと。

バーベル戦略

バーベル戦略とは、不確実性に対する解決策の一つで、一方でリスク回避を行いもう一方で極端なリスクを取ることを言います。

筋トレで使うバーベルをイメージすると思いますが、バーベル戦略で言うバーベルの両端は均等ではありません。リスク回避をする方は大きく、リスクテイクする方は小さくします。

中程度のリスクテイクは、測定誤差が生じるため上手くいかないことが多いですが、バーベル戦略をとることでダウンサイドリスクを抑えることができ破滅のリスクをゼロにできます。

例として資産配分におけるバーベル戦略を考えてみましょう。

資産の90%現金等の低リスク資産
資産の10%非常にハイリスクな資産

このように極端な形で資産を持つことで不確実性に対処できるというのがバーベル戦略の考え方です。

中程度のリスク商品(例えばインデックス投資信託)に資産の大半をつぎ込むのは状況次第では破滅する可能性さえあるとタレブは言っています。

空っぽのスーツ問題

専門家の中には、非専門家と能力面での違いはないのに専門家だと信じられている人がいます。その人たちを揶揄してタレブは「空っぽのスーツ問題」と呼んでいます。経済学者や政治アナリストがこれに当たります。

宝くじの誤り

宝くじの誤りとは、正のブラックスワンを集める投資を宝くじのまとめ買い呼ばわりする程度の低い議論のこと。

※拡張可能性:物事の性質はスケールが変わると急激に変化することが多く、小スケールで可能だったことが大スケールで可能とは限りません。

行きと帰りの誤り

域と帰りの誤りとは、ブラックスワンが存在する証明がないことをブラックスワンが存在しないという証拠があることと取り違えてしまうこと。

学術自由主義者

学術自由主義者とは、知識には厳密な決まりごとがあるが、”制度”からのお墨付きをもらう必要はないと考えている人のこと。タレブ自身がこの学術自由主義者にあたる。

移行的推論

移行的推論とは、仮説を立てずに歴史を考えること。

まぐれにだまされる

まぐれにだまされるとは、偶然と必然を混同してしまうこと。

投資家の成績が良いのは、運による要素が大きいのにも関わらず、投資家自身の能力のおかげであると信じ込んでしまうというのが具体例です。

「月並みの国」と「果ての国」

月並みの国大成功も大失敗もほとんどない、平凡な結果ばかりで占められているプロセス。例えば、サラリーマンの収入。
シン・テールとも呼ぶ。
果ての国一つの観測結果が全体に大きな影響を与えるプロセス。
ファット・テールとも呼ぶ。

「浅はかな合理主義」と「似非合理主義」

浅はかな合理主義医原病に陥る可能性を無視した干渉のこと。
ソビエトハーバード流の錯覚。
似非合理主義①信念がもたらす結果ではなく、信念そのものの合理性に着目すること。
②お粗末な確率モデルを用いている人を”非合理的”だと決めつけること。

浅はかな合理主義(ソビエトハーバード流の錯覚)

ロバート・ルービン取引

ロバート・ルービン取引とは、過去の利益はしっかりと得るが、ブラックスワンにより吹っ飛んだときの損失は背負わないという歪んだ取引のこと。

企業の役員が、好業績の報酬として多額のボーナスをもらっているにも関わらず、企業業績が悪化した際には何の罰も受けないという状態がロバート・ルービン取引の一例と言えるでしょう。つまり、身銭を切っていない状態。

アメリカ合衆国元財務長官のロバート・ルービンは2008年までの10年間でシティバンクから1億2000万ドルものボーナスを受け取っていました。

しかし、2008年のリーマンショックによりシティバンクは吹っ飛びました。このときロバート・ルービンは受け取ったお金は懐に収めたままで、シティバンクの多額の損失は政府が肩代わりしたのです。

身銭を切らないロバート・ルービンの最低な行いを記念して名付けられたのがロバート・ルービン取引というわけです。

グリーン材の誤謬

グリーン材の誤謬とは、外から見えづらくややこしい知識グリーン材を緑色の材木と間違えている知識とでどちらが重要な知識なのかを勘違いしてしまう現象のこと。ややこしい専門的な知識が必ずしも成功に役立つとは限らないということです。

「グリーン材」という商品の取引で大成功したトレーダーが、グリーン材のことを”緑色に塗った材木”だと思っていたという寓話があります。

グリーン材は正しくは伐採直後の材木のことで、トレーダーは全く見当違いのものをイメージして取引していたわけです。それにも関わらずグリーン材の取引を生業にして成功を収めていました。

そして重要なのは、このトレーダーが一般人が重要ではないと考える材木の知識についてはよく知っていたことです。

ソビエト=ハーバード流の錯覚(「鳥に飛び方を教える」現象)

ソビエト=ハーバード流の錯覚とは、鳥に飛び方を教えて、鳥が上手く飛べるのは講義のおかげだと思い込むというような因果関係の錯覚のこと。

鳥を例に挙げているので馬鹿らしく思えますが、鳥を人間に置き換えてみると「人間は勉強(講義)のおかげで物事のやり方を覚えている」というのはもっともらしく思えてきます。

この因果関係の錯覚の真偽を暴くには、出来事の順序を調べるというのが有用だと考えられます。

否定の道

否定の道とは、何を避けるべきか、何をするべきでないかという考え方のこと。何をするべきかと考える肯定の道よりも誤謬に陥りにくいとタレブが推奨している考え方。

例えば、医療においては患者に薬や治療を提供する(肯定の道)よりも、患者に喫煙をやめさせる(否定の道)ことの方が副作用が少ないと考えられます。

下の2つは、否定の道を応用した考え方です。

引き算的な知識

引き算的な知識とは、「~は間違いである」というタイプの知識のこと。これは否定の道の応用でほかの知識よりも信頼性が高い。

引き算的な予言

引き算的な予言とは、現在に何かを単純に加えるのではなく、未来から脆いものを取り除くことで、未来を予測すること。

最新性愛症(ネオマニア)

最新性愛症とは、変化そのものを愛すること。引き算的な予言とは反対に足し算的な予言をするため脆い。

古いものというのは、何らかの目的を果たしているから生き残っているわけで、新しいものと比べてずっと優れている場合が多いです。

拡張可能性(スケーラビリティ)

物事の性質はスケールが変わると急激に変化することが多いです。都市レベルで可能だったことが国家レベルで可能とは限りません。

ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、単純で実用的で使いやすい経験則のこと。タレブは「ヒューリスティックは欠かせない」と言うほどにヒューリスティックを重要視しています。

「アポロン的」と「ディオニュソス的」

ニーチェが提唱した概念。

アポロン的安定している合理的・理性的なもの
ディオニュソス的あいまいで直観的・野性的なもの

ディオニュソス的なものは一見すると非合理なヒューリスティックに思えますが、ディオニュソス的なものはティンカリング(いじくり回し)の源になりうるため実は有用な概念です。

ティンカリング(いじくり回し)

ティンカリングとは、失敗は起きても小さいが潜在的な利得は大きいというタイプの試行錯誤のこと。

シリコンバレーのフェイル・ファスト(早めに失敗する)という考え方はティンカリングの最たる例です。

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ハンムラビ流のリスク管理

ハンムラビ法典には、このような文言が書かれています。

「建築者の建てた家が崩壊し、家の所有者が死んだ場合にはその建築者を死刑に処す。家の所有者の息子が死んだ場合には建築者の息子を死刑に処す。家の所有者の奴隷が死んだ場合には、建築者は家の所有者に同価値の奴隷を引き渡すものとする。」
『反脆弱性』下巻229-230から引用

ハンムラビ流のリスク管理とは、建築者自身が建築した家に潜むリスクについて一番理解しているため、家が崩壊した場合には建築者に”身銭を切らせる”という理にかなったリスク管理方法です。

フラジリスタ

フラジリスタとは、自分は状況を理解していると思い込んで脆さを生み出す人間のこと。変動性を好むシステムから変動性を奪うことでシステムを脆くします。

医原病

医原病とは、治療者による投薬・手術などの医療行為によって利益よりも害が多くもたらされる状態のこと。

医療以外でも政策立案者や学者の行動が有害な副作用をもたらすという意味でも使われています。

ホルミシス

ホルミシスとは、わずかな有害物質やストレスによって生物が刺激を受ける現象のこと。量や強さが適切であれば生物はより強くなり強い刺激にも順応できるようになると考えられています。

言わば、毒を以て毒を制すですね。

放射線治療を行う時に、少しの放射線を当てて人体を活性化しておいてから放射線治療を行うと、放射線障害が抑制されることが実験的にもわかってきているそうです。

参考書籍

この記事はナシームニコラスタレブの『ブラックスワン』上下巻、『反脆弱性』上下巻、『身銭を切れ』の3作品の内容を参考にして書いています。

ブラックスワン上下巻

反脆弱性上下巻

身銭を切れ

まとめ

タレブ用語の量が多すぎたためすべてはまとめきれませんでしたが、主要な用語はまとめることができたと思います。

タレブの書籍を読んでいて用語が分からなくなったときにでもまた見ていただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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